「わ、ありがとう! 君の方も顽张ってね」
「はい!」
わたしは先生にマフラーを渡すと、お父様に気付かれないようそっと警备小屋を出て寮の方へ向かう。
……が、途中どうしても気になってこっそりと门の方の様子を覗いてみることにした。
すると先生は小屋から出て、お父様が隠れている茂みに近づき――、
「どーも、こんばんは。姫乃さんのお父様ですよね?」
なんとそのまま声をかけた。
「こ、これは朝比奈先生……!?」
「いやー、お勤めご苦労さまです。この寒い中大変ですね」
「いえいえ、これも可爱い娘の喜ぶ颜を见るためですからな」
「さすがですねー。でもこれ毎年やってるんですか?」
「ええもちろん。あの子のオシメが取れるより前からずっとでして」
「まさに亲の镜ですね。……あ、ちなみに彼女のオシメが取れたのって何歳くらいで……」
「ん? ああそれがですな……」
(保护者トークを始めた!?)
なるほどその手があったか。ただ若干会话内容が不安だが……、しかし背に腹は代えられない。
わたしはいろんな意味での迷いを断ち切り、学生寮のロビーへと向かうことにした。
チャプター2:星野彼方
ロビーの警备担当は星野さんのはず。
先生が时间を稼いでいるうちにどうにか说明しなければ。
と思ってわたしがロビーに踏み込むと、そこには意外な光景が広がっていた。
「…………あの星野さん、何してるんですか?」
「サンタを待ってる」
そう言う星野さんはロビーの中央で丁宁に敷いた布団に入っていた。
モダンな広いロビーの中央に広げられた布団……、なかなかにシュールな光景である。
というかこの寮は全部屋ベッドのはずだが、敷き布団はどこから持ってきたのだろう。
「こうしてるとサンタさんがプレゼントを置いていくだろうから、その时に捕まえようかと思って」
「なるほど……」
さすが星野さん、独创的だ。
だがこれはむしろ好都合だろう。一分一秒が惜しい今、事情を说明する手间を省けるなら省きたい。
「ダメですよ星野さん、サンタさんは子供がぐっすり寝てないとプレゼントを置いて行かないんです」
「本当に? 困ったな。ぐっすり寝てたらさすがにサンタの接近にも気づけないかもしれない」
「じゃあわたしが见ているので星野さんは眠ってもらえますか? サンタが来たら起こします」
「そう? 悪いね。それじゃお愿いしてもいいかな。真之介に言われたから警备してたけど、正直结构眠かったんだ」
「はい、任せてください!」
「良かった。それじゃお休み、京子」
「おやすみなさい、星野さん」
「…………zzz」
(これでよし……!)
若干骗すのが悪い気がしたので、わたしは靴下を片方脱いで星野さんの枕元に置いておくことにした。
お父様ならきっと空気を読んで何か入れて行ってくれるだろう。
その后、わたしは星野さんが安らかな寝息を立て始めたのを确认して静かに走りだした。
残るは乌丸さんと真之介……。
チャプター3:乌丸幸斗
ロビーを抜けたわたしは阶段へとやって来た。
ここの警备はたしか乌丸さん。わたしは真之介のトラップに注意しながら乌丸さんの姿を探す。
と、すぐに见つかった。3阶の踊り场で乌丸さんが座り込んでいる。
「乌丸さ――」
だが駆け寄ろうとした时、わたしはあることに気づいた。
「zzz」
乌丸さんは座り込んだまま眠ってしまっていたのだ。
(良かった。说明するまでもなかったみたい)
しかし见ると乌丸さんは普段着姿。屋内とはいえ、こんな格好で寝ていては风邪をひいてしまいそうだ。
わたしはやむを得ず着ていたカーディガンを脱ぐと、乌丸さんにそっと羽织らせてあげた。まだ少し心许ないが、
后で皐月さんに彼のことをお愿いしておけばいいだろう。
(何にせよこれであとは真之介だけ!)
「姫乃……さん、ダメだって……。そ、そんな、格好……」
「!?」
不意に乌丸さんに名を呼ばれ进みだそうとしていた足が止まる。
起こしてしまったのかと焦ったが、振り返ってみても乌丸さんはいぜん眠ったままだった。どうやら寝言らしい。
「頼むから……、ミニスカ……だけは……勘弁」
(ミニスカ???)
――が、その时、身动ぎした彼の手から小さな通信机が落下した。
そして……、
『イントルーダーアラート! 阶段に侵入者を确认!!』
圣夜の静寂を破る警报が、学生寮全体に鸣り响いた。
チャプター4:柾木真之介
(しまった、冲撃でスイッチが!?)
わたしは大慌てで通信机を拾い上げてスイッチを切る。
しかし、时すでに遅かった。
「また会えましたね……、サンタクロース!!」
警报を闻いて飞んできたのだろう。见ると廊下の方からフル装备の真之介がこちらへ全力疾走中だった。
(マズイ……!)
ここで彼に捕まると面倒な事になってしまう。わたしは身を翻し、慌てて上阶へと逃げ出した。
* * *
だが困ったことに学生寮は3阶建て。阶段を上った先はすぐに屋上だった。
(くっ、これじゃ逃げ场が――)
「ふふふ、どうやら逃げる方向を误りましたね」
「!?」
振り返ると真之介に追いつかれていた。
「どうやら年贡の纳め时のようですよ……、ってあれ? お嬢様!?」
「あ、あの、えっとね真之介。実はこれにはわけがあって」
「…………」
「……真之介?」
「お嬢様に変装するとは考えましたね! 一瞬本物かと思いましたよ!」
(そう来たか……!)
「さあ! 大人しくお縄につけっ!!」
「きゃあああ!?」
とっさに身を翻したが间に合わず、右手を真之介に掴まれる。
「っ!?」
だが手袋だったのが幸いした。
素早く手を引くことで手袋が脱げ、わたしは何とか真之介の手を振りほどくことに成功する。しかし――、
「くっ、逃がしませんよ!」
それくらいでは何の解决にもならなかった。
真之介はすぐ追いつき、今度は背后からわたしをがっしりと羽交い缔めにする。
「特殊メイクか何かでしょうが、贵様のような不审者がお嬢様の姿をするなど畏れ多い……!
今すぐ化けの皮をはがして差し上げますよ!」
と言うと、间髪入れず真之介は手でわたしの颜に手をかける。
「ひゃ!? や、やめなさい真之介!」
「ん? メイクの境目がない……、もっと下か?」
「へっ!?」
颚のあたりを探っていた真之介の手がそのまま下に降りていく。
マフラーもカーディガンもすでに无いため、真之介の手の进行を遮る物は何もない。
――マズイ!!
とっさに头の中で警钟が鸣り响く。これはマズイ。ただでさえここまで走ってくるので心拍が上がっているというのに、
【そんなこと】をされたら発作が……。
「真之介! いい加减に――」
が、遅かった。
真之介の腕が锁骨の辺りを滑った感触が止めの一撃となり、わたしの意识はTVが消えるかのようにブツンという音を立て――、
「真之介の……、エッチ……」
そして消失した。
チャプター5:???
「……ん?」
仆は异変に気づいて手を止めた。
サンタが抵抗を止めている。いや、抵抗しないどころかこれは意识を失っていないか?
(まさか逃げられないと悟って自决を!?)
そんな隙は与えなかったが、もしかすると歯に仕込むタイプの剧物かもしれない。
仆は慌ててサンタを寝かせてバイタルサインを确认する。と、どうやらまだ生きてはいるようだが呼吸と脉が弱くなっていた。
「くっ、まだ何の情报も闻き出せていないのに! どうにか処置を……」
とにかくまずは気道を确保しなければ。仆はサンタの胸のボタンを开けようと手を伸ばす。
(変装とはいえ、何だかお嬢様の服を脱がすようで复雑だな……)
いや、だがこいつは不审者。気にすることはない。
仆は迷いを振り払ってサンタの襟を掴み、そして一気に服をはだけさせ――、
「やれやれ、世话の焼けるヘタレですね本当」
「へ?」
次の瞬间、后头部に走った冲撃によって仆の意识は途绝えた。
* * *
间一髪のところでヘタレ执事を黙らせた后、仆は意识を失ったままの京子さんを抱き上げる。
见たところ軽い発作を起こしただけのようだ。これならこのままでも命に别状はないだろう。
「はぁ……、せっかくクリスマス企画のために时を越えて来たっていうのに、
ヘタレ执事のせいで起きてる京子さんに会えなくなってしまいましたね」
せっかく出会った顷の、高校生时代の京子さんに悪戯するチャンスだったというのに……。
そう思ったら悔しくなったので、复讐ついでに足元のヘタレの上に腰を下ろすことにした。
だってほら、地べたは冷たいですし。
(ん? でも待てよ……)
よく考えるとこれは好都合かもしれない。なぜなら、京子さんが気を失っているということはつまり……、だ。
今なら何しても発作の心配がないのだから。
「クリスマスですし、仆も【プレゼント】をいただきますね……?」
エピローグ
「うわああああああああああ!!」
わたしは毎年恒例の真之介の叫びで目を覚ました。
だが、疑问が1つ。
「あれ? わたし昨日、真之介に抱きつかれて意识を……」
そこまでは覚えていた。だが见たところ今わたしは学生寮の部屋のベッドで寝ていて、枕元にはちゃんとプレゼントも置いてある。
しかし、その割にはあの后いったいどうやってこの部屋まで戻ってきたのかは记忆にない。
(まさか皐月さんが……?)
「おはようございます、お嬢様」
などと悩んでいるとベッドの横に皐月さんが现れた。
……开いたドアの向こうに死にそうな颜になっている真之介が见えたが、まぁそれはいつも通りなので后でフォローすれば大丈夫だろう。
「ねぇ、皐月さんなの? 気绝したわたしをここまで运んだの」
「気绝……? 何のことでしょう。お嬢様はわたくしがここで眠っている间に戻って来たのでは?」
「え? そうなの?」
「? わたくし起きたらここの床で寝ていて、てっきりお嬢様が降ろしてくれたのだとばかり……。违うのですか?」
「???」
「???」
「ま、まぁ……、いろいろと谜は残るけれど、とにかく今年も何とかなって良かったわね!」
「……そうですね、何はともあれ世界経済は救われましたし」
「さてと、それじゃ朝食を食べに行きましょう? 髪のセットをお愿いできるかしら」
「もちろんです。では向こうを向いていただけますか」
「ええ」
「……っ!?」
「皐月さん? どうかしたの?」
「あのお嬢様……、昨晩何かあったんですか?」
「それがよく覚えてないのよね。3人を说得できたのは覚えてるんだけど」
「何かこう……、わたくしたちに言えないようなことをしたりはしませんでした?」
「何よ急に。别に何もしてないわよ?」
「あの、ではこれはいったい……」
そう言いつつ皐月さんはわたしのうなじの辺りを指し、こちらにも见えるように手镜をかざす。
「いったい何が……、っ!?」
そこに残されていたのは、消えかけのキスマークだった。
END