日文版《源氏物语》第三篇《空蝉》
空蝉(うつせみ)
うつせみのわがうすごろも风流男(みやびお)に驯れてぬるやとあぢきなきころ
晶子
眠れない源氏は、
「私はこんなにまで人から冷淡にされたことはこれまでないのだから、今晩はじめて人生は悲しいものだと教えられた。はずかしくて生きていられない気がする」
などというのを小君は闻いて涙さえもこぼしていた。ひじょうにかわいく源氏は思った。思いなしか手あたりの小柄なからだ、そう长くは感じなかったあの人の髪も、これに似ていたように思われてなつかしい気がした。このうえ、しいて女を动かそうとすることも见苦しいことに思われたし、また真から恨めしくもなっている心から、それきりことづてをすることもやめて、翌朝早く帰って行ったのを、小君は気の毒なものたりないことに思った。女もひじょうにすまないと思っていたが、それからはもう手纸もこなかった。お愤(おこ)りになったのだと思うとともに、このまま自分が忘れられてしまうのは、悲しいという気がした。それかといって、むりな道をしいて、あの方が通ろうとなさることのつづくのはいやである。それを思うと、これで结末になってもよいのであると思って、理性では是认しながらもの思いをしていた。
源氏は、ひどい人であると思いながら、このままなりゆきにまかせておくことはできないような焦虑を覚えた。
「あんな无情な恨めしい人はないと私は思って忘れようとしても、自分の心が自分の思うようにならないから苦しんでいるのだよ。もう一度会えるようないい机会をおまえがつくってくれ」
こんなことをしじゅう小君はいわれていた。困りながらこんなことででも自分を源氏が必要な人物にしてくれるのがうれしかった。子ども心に机会をねらっていたが、そのうちに纪伊守(きいのかみ)が任地へ立ったりして、残っているのは女の家族だけになったころのある日、夕方の物の见分けのまぎれやすい时间に、自身の车に源氏を同乗させて家へ来た。なんといっても案内者は子どもなのであるからと源氏は不安な気はしたが、慎重になどしてかかれることでもなかった。目立たぬ服装をして纪伊守家の门のしめられないうちにと急いだのである。少年のことであるから家の侍(さむらい)などが追従(ついしょう)して出迎えたりはしないのでまずよかった。东侧の妻戸の外に源氏を立たせて、小君自身は縁をひとまわりしてから、南の隅(すみ)の座敷の外から元気よくたたいて戸をあげさせて中へはいった。女房が、
「そんなにしては人がお座敷を见ます」
と小言(こごと)をいっている。
「どうしたの、こんなに今日は暑いのに早く格子(こうし)をおろしたの」
「お昼から西の対(たい)(寝殿の左右にある対(たい)の屋(や)の一つ)のお嬢様が来ていらっしって、碁(ご)を打っていらっしゃるのです」
と女房はいった。
空蝉(うつせみ)
うつせみのわがうすごろも风流男(みやびお)に驯れてぬるやとあぢきなきころ
晶子
眠れない源氏は、
「私はこんなにまで人から冷淡にされたことはこれまでないのだから、今晩はじめて人生は悲しいものだと教えられた。はずかしくて生きていられない気がする」
などというのを小君は闻いて涙さえもこぼしていた。ひじょうにかわいく源氏は思った。思いなしか手あたりの小柄なからだ、そう长くは感じなかったあの人の髪も、これに似ていたように思われてなつかしい気がした。このうえ、しいて女を动かそうとすることも见苦しいことに思われたし、また真から恨めしくもなっている心から、それきりことづてをすることもやめて、翌朝早く帰って行ったのを、小君は気の毒なものたりないことに思った。女もひじょうにすまないと思っていたが、それからはもう手纸もこなかった。お愤(おこ)りになったのだと思うとともに、このまま自分が忘れられてしまうのは、悲しいという気がした。それかといって、むりな道をしいて、あの方が通ろうとなさることのつづくのはいやである。それを思うと、これで结末になってもよいのであると思って、理性では是认しながらもの思いをしていた。
源氏は、ひどい人であると思いながら、このままなりゆきにまかせておくことはできないような焦虑を覚えた。
「あんな无情な恨めしい人はないと私は思って忘れようとしても、自分の心が自分の思うようにならないから苦しんでいるのだよ。もう一度会えるようないい机会をおまえがつくってくれ」
こんなことをしじゅう小君はいわれていた。困りながらこんなことででも自分を源氏が必要な人物にしてくれるのがうれしかった。子ども心に机会をねらっていたが、そのうちに纪伊守(きいのかみ)が任地へ立ったりして、残っているのは女の家族だけになったころのある日、夕方の物の见分けのまぎれやすい时间に、自身の车に源氏を同乗させて家へ来た。なんといっても案内者は子どもなのであるからと源氏は不安な気はしたが、慎重になどしてかかれることでもなかった。目立たぬ服装をして纪伊守家の门のしめられないうちにと急いだのである。少年のことであるから家の侍(さむらい)などが追従(ついしょう)して出迎えたりはしないのでまずよかった。东侧の妻戸の外に源氏を立たせて、小君自身は縁をひとまわりしてから、南の隅(すみ)の座敷の外から元気よくたたいて戸をあげさせて中へはいった。女房が、
「そんなにしては人がお座敷を见ます」
と小言(こごと)をいっている。
「どうしたの、こんなに今日は暑いのに早く格子(こうし)をおろしたの」
「お昼から西の対(たい)(寝殿の左右にある対(たい)の屋(や)の一つ)のお嬢様が来ていらっしって、碁(ご)を打っていらっしゃるのです」
と女房はいった。