朝 目が覚めると
何故か泣いている
そういうことが 時々ある
見ていたはずの夢は いつも思い出せない
ただ
ただ
何かが消えてしまうという感覚だけが
目覚めてからも 長く残る
ずっと何かを 誰かを 探している
そいう気持ちに取り憑かれたのは
多分あの日から
あの日 星が降った日
それはまるで
まるで 夢の景色のように
ただひたすらに
美しい眺めだった
タキくん タキくん
覚えて、ない?
名前は
ミツハ!
お姉ちゃん 何しとるの?
いや すげえ本物っポイなあって
え?お姉ちゃん?
何 寝ボケとるの
ご·は·ん!
はよ来ない!
おばあちゃん 昨日のお魚出す?
あんたが食べや
おはよ おはよう
お姉ちゃん おーそーいー!
明日は私が作るでね
食べすぎかな?
ま いっか
今日は普通やな
昨日はヤバかったもんな
え ちょっと なに
皆様 おはよございます
町役場から 朝のお知らせです
来月二十日に行われる 糸守町町長選挙について
町の選挙…
1200年に一度という彗星の来訪が いよいよ一月後に迫っています
彗星は数日間にわたって 肉眼でも観測できると見られており
いい加減仲直りしないよ
世紀の天体ショーを目前に
大人の問題
JAXAをはじめとした世界中の研究機関は観測のための準備に追われています
いってきまーす
それで おばあちゃんたらな お米屋さんのお兄ちゃん…
确り勉強しといで
三葉
おはよう サヤちん テッシー
おはよう
お前早く降りろ
いいにん ケチ
重いんやさ
失礼やな
あんたたち 仲良いなあ
よくねえわ(よくないわ)
三葉 今日は髪ちゃんとしとるね
え 何
そうや ちゃんと祖母ちゃんにお祓いしてもらったんか
オハライ?
ありゃ絶対狐憑きやぜ
何でもオカルトにしんの
きっと三葉はストレスたまっとるんよ
なあ
え ちょ ちょっと 何の話?
何って お前
そしてなによにも 集落再生事業の継続
そのための町の財政健全化 それが実現して初めて
安全 安心な町作りができるのです
現職として
ここまで進めさせていただいてきたまち作りを完遂させたい
どうせ今期も宮水さんで決まりやろ
だいぶ撒いとるしなあ ここだけの話
更なる磨きをかけたい
そして新たな情熱でこの地を導き
おう 宮水
おはよう
子供からお年寄りまで 誰もが安心して活き活きと活躍できる町作りを完遂させていただきたい
町長と土建屋は その子供も仲ええなあ
いややわ
三葉!
胸張って歩かんか!
身内も厳しいなあ
さすが町長やわ
恥ずかしい
ちょっとかわいそう
三葉
こんな時ばっかり
「誰そ彼」 これが「黄昏時」の語源ね
黄昏時は分かるでしょう?
夕方 昼でも夜でもない時間
世界の輪郭がほやけて 人ならざるものに出会うかもしれない時間
もっと古くは 「彼誰そ時」とか
「彼は誰れ時」とか言ったそうです
しつもーん
「カタワレ時」やなって
「カタワレ時」?
それはこの辺りの方言じゃない?
糸守のお年寄りには万葉言葉が残ってるって聞くし
ど田舎やもんなあ
じゃあ 次 宮水さん
あ はい
あら 今日自分の名前 覚えてるのね
覚えとらんの?
うん
あんただって 昨日は自分の机もロッカーも忘れたって言って
髪は寝癖ついとったし リボンはしとらんかったし
うそ ホント!?
なんか 記憶喪失みたいやったよ
そういえば ずっと変な夢を見とったような気がするんやけど
なんか 別の人生の 夢
よく覚えとらんなあ
分かった それって
前世の記憶
もしくはエヴェれットの解釈に基づくマルチバースに
無意識が接続したちゅう…
あんたは黙っとって
あ テッシー もしかしてあんたが私のノートに…
何でもない
でも三葉 昨日はマジでちょっとヘンやったよ
どっか体調悪いんやない
おかしいなあ
元気やけどなあ
ストレスとかやない
ほら 例の儀式ももうすぐやろ
ああ 言わんといて
もう私この町いやや
狭すぎるし濃すぎるし
さっさと卒業して早く東京行きたいわ
まあなあ ホントに何もないもんなあこの町
電車なんか二時間に一本やし
コンビニは九時に閉まるし
本屋ないし 歯医者ないしな
そのくせにスナックは二軒あるし
雇用はないし
嫁は来ないし
日照時間は短いし
お前らなあ
なによ
そんなことより カフェにでも寄ってかんか
カフェ?
できたの?
どこ!?
こんにちは
こんにちは
なにやカフェやさ
この町にそんなんあるか?
三葉帰っちゃったやろ
あの子もホント大変やよね
まあ 三葉は主役やからな
せやな
ねえ テッシー
うん?
よしよし
高校卒業したらどうするの?
何やさ急に 将来とかの話?
うん
別に 普通にずっと この町で暮らしてくんやと思うよ 俺は
私もそっちがいいわぁ
四葉にはまだ早いわ
糸の声を聞いてない
そうやってずーっと糸を巻いとるとな
じきにひと糸との間に感情が流れだすで
糸はしゃべらもん
集中しろってことやよ
ワシらの組紐にはな
糸守千年の歴史が刻まれとる
ええか さかのぼること200年前
始まった
草履屋の山崎繭五郎の風呂場から火が出て
この辺は丸焼けとなってまった
お宮も古文書もまな焼け
これが俗に言う
繭五郎の大火
うむ
え 名前ついとるの!?
繭五郎さんかわいそう
おかげで 祭りの意味も分からんくなってまって
残ったのは形だけ
せやけど 文字は消えても 伝統は消えちゃあいかん
それがワシら宮水神社の大切なお役目
せやのに あのバカ息子は
神職を捨て
家を出ていくだけじゃ飽き足らんと
政治とはどもならん
社長 ほら もう一杯
今回も社長にはお世話になるで
任しといで下さい
門上と坂上辺りの票は間違いなあですわ
お前 あの子とどう?
んな簡単にいかん
腐敗の匂いがするなあ
何言っとるの
おい もう二三本つけとくれ
はいはい
克彦 週末は現場手伝え
ハッパ使うでな 勉強や
うん
何故か泣いている
そういうことが 時々ある
見ていたはずの夢は いつも思い出せない
ただ
ただ
何かが消えてしまうという感覚だけが
目覚めてからも 長く残る
ずっと何かを 誰かを 探している
そいう気持ちに取り憑かれたのは
多分あの日から
あの日 星が降った日
それはまるで
まるで 夢の景色のように
ただひたすらに
美しい眺めだった
タキくん タキくん
覚えて、ない?
名前は
ミツハ!
お姉ちゃん 何しとるの?
いや すげえ本物っポイなあって
え?お姉ちゃん?
何 寝ボケとるの
ご·は·ん!
はよ来ない!
おばあちゃん 昨日のお魚出す?
あんたが食べや
おはよ おはよう
お姉ちゃん おーそーいー!
明日は私が作るでね
食べすぎかな?
ま いっか
今日は普通やな
昨日はヤバかったもんな
え ちょっと なに
皆様 おはよございます
町役場から 朝のお知らせです
来月二十日に行われる 糸守町町長選挙について
町の選挙…
1200年に一度という彗星の来訪が いよいよ一月後に迫っています
彗星は数日間にわたって 肉眼でも観測できると見られており
いい加減仲直りしないよ
世紀の天体ショーを目前に
大人の問題
JAXAをはじめとした世界中の研究機関は観測のための準備に追われています
いってきまーす
それで おばあちゃんたらな お米屋さんのお兄ちゃん…
确り勉強しといで
三葉
おはよう サヤちん テッシー
おはよう
お前早く降りろ
いいにん ケチ
重いんやさ
失礼やな
あんたたち 仲良いなあ
よくねえわ(よくないわ)
三葉 今日は髪ちゃんとしとるね
え 何
そうや ちゃんと祖母ちゃんにお祓いしてもらったんか
オハライ?
ありゃ絶対狐憑きやぜ
何でもオカルトにしんの
きっと三葉はストレスたまっとるんよ
なあ
え ちょ ちょっと 何の話?
何って お前
そしてなによにも 集落再生事業の継続
そのための町の財政健全化 それが実現して初めて
安全 安心な町作りができるのです
現職として
ここまで進めさせていただいてきたまち作りを完遂させたい
どうせ今期も宮水さんで決まりやろ
だいぶ撒いとるしなあ ここだけの話
更なる磨きをかけたい
そして新たな情熱でこの地を導き
おう 宮水
おはよう
子供からお年寄りまで 誰もが安心して活き活きと活躍できる町作りを完遂させていただきたい
町長と土建屋は その子供も仲ええなあ
いややわ
三葉!
胸張って歩かんか!
身内も厳しいなあ
さすが町長やわ
恥ずかしい
ちょっとかわいそう
三葉
こんな時ばっかり
「誰そ彼」 これが「黄昏時」の語源ね
黄昏時は分かるでしょう?
夕方 昼でも夜でもない時間
世界の輪郭がほやけて 人ならざるものに出会うかもしれない時間
もっと古くは 「彼誰そ時」とか
「彼は誰れ時」とか言ったそうです
しつもーん
「カタワレ時」やなって
「カタワレ時」?
それはこの辺りの方言じゃない?
糸守のお年寄りには万葉言葉が残ってるって聞くし
ど田舎やもんなあ
じゃあ 次 宮水さん
あ はい
あら 今日自分の名前 覚えてるのね
覚えとらんの?
うん
あんただって 昨日は自分の机もロッカーも忘れたって言って
髪は寝癖ついとったし リボンはしとらんかったし
うそ ホント!?
なんか 記憶喪失みたいやったよ
そういえば ずっと変な夢を見とったような気がするんやけど
なんか 別の人生の 夢
よく覚えとらんなあ
分かった それって
前世の記憶
もしくはエヴェれットの解釈に基づくマルチバースに
無意識が接続したちゅう…
あんたは黙っとって
あ テッシー もしかしてあんたが私のノートに…
何でもない
でも三葉 昨日はマジでちょっとヘンやったよ
どっか体調悪いんやない
おかしいなあ
元気やけどなあ
ストレスとかやない
ほら 例の儀式ももうすぐやろ
ああ 言わんといて
もう私この町いやや
狭すぎるし濃すぎるし
さっさと卒業して早く東京行きたいわ
まあなあ ホントに何もないもんなあこの町
電車なんか二時間に一本やし
コンビニは九時に閉まるし
本屋ないし 歯医者ないしな
そのくせにスナックは二軒あるし
雇用はないし
嫁は来ないし
日照時間は短いし
お前らなあ
なによ
そんなことより カフェにでも寄ってかんか
カフェ?
できたの?
どこ!?
こんにちは
こんにちは
なにやカフェやさ
この町にそんなんあるか?
三葉帰っちゃったやろ
あの子もホント大変やよね
まあ 三葉は主役やからな
せやな
ねえ テッシー
うん?
よしよし
高校卒業したらどうするの?
何やさ急に 将来とかの話?
うん
別に 普通にずっと この町で暮らしてくんやと思うよ 俺は
私もそっちがいいわぁ
四葉にはまだ早いわ
糸の声を聞いてない
そうやってずーっと糸を巻いとるとな
じきにひと糸との間に感情が流れだすで
糸はしゃべらもん
集中しろってことやよ
ワシらの組紐にはな
糸守千年の歴史が刻まれとる
ええか さかのぼること200年前
始まった
草履屋の山崎繭五郎の風呂場から火が出て
この辺は丸焼けとなってまった
お宮も古文書もまな焼け
これが俗に言う
繭五郎の大火
うむ
え 名前ついとるの!?
繭五郎さんかわいそう
おかげで 祭りの意味も分からんくなってまって
残ったのは形だけ
せやけど 文字は消えても 伝統は消えちゃあいかん
それがワシら宮水神社の大切なお役目
せやのに あのバカ息子は
神職を捨て
家を出ていくだけじゃ飽き足らんと
政治とはどもならん
社長 ほら もう一杯
今回も社長にはお世話になるで
任しといで下さい
門上と坂上辺りの票は間違いなあですわ
お前 あの子とどう?
んな簡単にいかん
腐敗の匂いがするなあ
何言っとるの
おい もう二三本つけとくれ
はいはい
克彦 週末は現場手伝え
ハッパ使うでな 勉強や
うん