ペトラのエミリア陣営奮闘記/Page4
『ペトラのエミリア陣営奮闘記/Page4』
「それにしても、あの大っ嫌いは実に痛快だったな」
と、会食の席へ座った途端、『酪農王』グリファス·アレンが上機嫌に自分の太鼓腹を
撫でながら言い放った。
場所はトリオン·アルーズ子爵の邸宅、それは西方辺境伯領会合の会場でもある。
———王選に向けて、エミリア陣営の今後を左右する大事な会合だ。
会合に集ったのはいずれ劣らぬ名のある有力者たちであり、彼ら全員の協力を取り付け
ることは、エミリア陣営が王選を戦っていくために必要不可欠な条件だった。
そのための話し合いが持たれ、その会合の場でロズワールL.メイザース辺境伯がど
んな弁舌を振るうのか、そこに大いに期待が寄せられていたところだが——
「お恥ずかしいところをお見せしてしまい……」
「恥ずかしがるこたないでしょーよ。おじさんたちの前で立派なもんだったっての。トリ
オンちゃんもそう思うでしょ?」
「何故、私に同意を求められたのか……。いえ、特段、このメイドの少女に落ち度はあり
ませんでした。あの場で堂々として、私も感心を……」
「ペトラちゃーん、トリオンちゃんは若い嫁さんもらってるから気を付けた方がいいよ」
「グウェイン殿!」
赤い顔で怒鳴るアルーズ子爵に、軽薄に笑ったグウェイン·メレテーが片目を閉じる。
その二人の言い争いに唇を緩め、赤い顔をした少女、ペトラが恐縮した。
ロズワールの従者としてこの会合に同行したペトラだが、その役目はお付きのメイドだ
けに留まらず、とんでもない重責を担わされることとなった。
まさか、ハーフエルフであるエミリアを王選へ推薦したことについて、その出自を支援
者たちに隠していたことの釈明にペトラを利用しようとは。
さしものペトラも、ここまでの大役を押し付けられるのは完全なる予想外だった。
狙いとしては、ロズワールに肩入れする理由のないペトラが、エミリアの人柄について
言葉を尽くして説明することで説得力を生むこと。それはわからなくはない。
わからないのは、どうしてそういう大事なことを直前まで黙っておくのかだ。
「失敗したら、困るのは旦那様も一緒のくせに……」
本気で性質が悪いのは、ロズワールは『できない』ことは押し付けないことだ。あくま
で彼がやらかすのは、ペトラの能力で補い切れる範囲の嫌がらせ。
だから、ペトラはその突然の大一番をも何とか乗り切った。ただし、怒りはある。